最近のもの

インパール」は、インパール作戦に従軍した著者が第33師団を中心に書いたもの。同師団の柳田師団長は臆病者と罵られ、途中で解任されている。牟田口司令官の不可解な指導に振り回される様子や、切り込み攻撃で敵陣へ突っ込んでいき、徐々に銃声が聞こえなくなるといった様子は読んでいて悲しくなる。画家志望の中尉を中心に書いていて、おそらく奇跡的に帰還した人の体験を参考にしながら書いたのだろう。最近復刊したものだが今こそ読むべきものだと思う。
「抗命」は、「インパール」とは違い、第31師団を中心に書いている。佐藤師団長は補給がない状態で良くがんばったが、命令に反し途中で撤退する。この本では、最初に牟田口司令官が戦後に陳述した文書が紹介されている。同氏は、戦後も自分の正当性を主張する文書を配布していたのだとか。読んでいて気持ちが重たくなる本。
東京電力」は福島原発事故直後に復刊されたもの。東京電力を中心とした電力界と、その力を何とかそいでコントロールしようとする通産省との戦いが紹介されている。石炭発電は放射性物質を相当量出しているという記述があるが本当なのだろうか。
「橋の上の殺意」は藤里町の自動連続殺害事件を題材にしたルポ。小学4年生の女の子が行方不明となり、後に下流で遺体で発見された後に、近所の男の子も行方不明になり、やがて遺体が発見された事件。やがて女の子の母親が逮捕され、無期懲役の判決が確定している。著者は彼女の生い立ちから取材して、子供の頃いじめられていたこと、虐待を受けていたこと、高校卒業後に鬼怒川温泉へ働きに出るも父親に連れ戻されたこと、結婚から離婚までなどつぶさに紹介している。自分の子の殺害については、記憶をなくしている容疑者を検察が執拗に追い詰めていると批判している。地元紙の北羽新報が、抑制的な報道をしていたことも評価されている。著者はかなり彼女に寄り添って書いていて、死刑を求める世論への反論などは読ませるものの、全体的にはあまり共感できない。
「中国銀河鉄道の旅」は、著者が本の雑誌にも連載を出しているので興味をもって読んだ。中国へ旅した時に、飛行機で隣の席だったハイラル出身の若い女性と出会い、様々なところを案内してもらい、実家にも招かれ、民宿への改装の支援も求められたりする様子が書かれている。相当年の差があるはずだが、そこはかとなく惹かれていく気持ちが読み取れる。
「兵士に聞け」は兵士シリーズの最終巻。沖縄でのスクランブル発進の様子が最初に紹介されているが、このシリーズが始まった20年前は取材に対してかなりオープンだったものが、今では相当情報統制が進み、ナーバスになっていることが紹介されている。そんな中でも、若い飛行隊長の人となりや考えていること、御嶽山噴火の際に救命活動に従事した若い隊員の話など、それぞれ読ませる内容。
「ラスト・バタリオン」は、戦後台湾に渡り、国民党軍を指導した「白団」を扱っている。蒋介石を称える石碑が房総半島に人知れず建っている紹介から始まり、戦後台湾へ渡った人たちを一人ずつ追っている。陸軍軍人が中心だったが、中には海軍出身者もいたようだ。蒋介石の日記を参照しながら、白団の台湾での生活を説明しているが、彼らの立場からすれば当然だが、蒋介石を批判的に見ることなく、全て肯定的に捉えているのが本書の特徴。
箱根駅伝…」は、2015年の箱根駅伝を扱ったルポ。神野が快走して青山学院が初優勝した年だが、それだけでなく、東洋の酒井監督が学法石川で高校生を指導していながら、東洋からスカウトされて移籍した話など、それぞれ興味深く読んだ。
「箱根0区…」は、東海大学陸上部の4年生たちを追ったルポ。2018年1月の第94回箱根駅伝でメンバーに選ばれなかった4年生たちの、大会当日までの関わり方を追っている。入学後ずっと努力してきて、最後選ばれずに給水係や応援、計測係となる4年生たち。やり切れない思いも残っていると思うが、それぞれの役割を果たしながらチームをサポートしている姿が印象的。6区を走る選手の付き添いでは、箱根の宿舎で朝3時に起きて、練習の付き添いをするんだとか。選手同士の対立や軋轢も隠すことなく書いていて、選手それぞれの個性が伝わってくる。この本が出版されたのが2018年12月。その次の第95回箱根駅伝で、東海大学は初の総合優勝をかざった。