最近のもの

「軍隊を誘致せよ」は、明治以降の陸軍誘致を解説したもの。秋田県内では、秋田市と六郷町が誘致合戦を繰り広げたというのが興味深かった。秋田市は分かるが、六郷とは。当時街道沿いで繁栄していたのだろうか。一度軍隊がくれば、出入り業者、食料調達など、地元経済にかなりのインパクトがあり、今でいう企業誘致に近い感覚なのだと思う。大正時代の軍縮期にはかなり影響があったようだ。
槍ヶ岳開山」は、槍ヶ岳に初登頂した播隆上人を題材にした小説。地元の富山で一揆に巻き込まれ、誤って妻を殺してしまった後、出家して修行の一環として各地の山に登る。周囲が彼をちやほやしつつ利用する様子も書かれている。
アメリカ…」は、ベトナム戦争湾岸戦争のみならず、戦後アメリカが直接又は間接的に関わってきた汚い戦争について説明している。特に中南米では、政権側へ、弾圧のための様々なノウハウを伝授したり軍事指導を行ったりと、露骨に介入している。朝鮮戦争ベトナム戦争湾岸戦争以外に、ここまでアメリカは戦争していたのかと驚かされる。また、トランプ大統領になったことでの将来への不安も書かれている。
「サカナとヤクザ」は衝撃的なルポ。北海道での暴力団による密漁の取材から始まり、築地で実際に働きながら偽装マグロを追跡する。ソ連時代のレポ船についても触れられている。うなぎの稚魚がグレーだというのはよくいわれているが、ここまでとは思わなかった。自分が食べている魚も、どこかでそういう資金源につながっているかと思うと変な気持ちになる。
「漂流」は、沖縄の漁師が外洋で長期間漂流して奇跡的に助かり、一時は海を離れるものの、やはりまた海に戻り、遭難して現在は行方不明という状況を丁寧にたどったもの。様々な漁業関係者にインタビューをしており、沖縄の漁業史がわかってくる。一度は海を離れてもまた漁に携わることになるのが不思議だが、人はやはり環境に左右されるものなのだと思わされる。
かつお節と日本人」は、「漂流」を読んだ後に関心を持ったので再読。戦前は南洋に進出してかつお漁を盛んに行っていた様子がわかる。かつお節は軍事物資として重宝されていて、戦時中は軍の直轄のようなかたちで納入していたようだ。
「Xの悲劇」は、推理小説の古典だが、今読んでも面白い。路面電車の中である証券業者が毒殺され、その路面電車の運転手や、証券業者の共同経営者も次々と殺される事件を、俳優を引退したレーンが解決するというもの。昔の悲劇が殺人事件に繋がるのは、緋色の研究につながるところがあるなと思いながら読んだ。
「歪んだ波紋」は、新聞記者と誤報を題材にした短編小説がいくつかまとめられたもの。それぞれの話が少しずつ繋がっていて、前の短編で謎だったところが次に明かされたりするが、伏線を回収しきれていない感じを受けた。
「そばですよ」は、本の雑誌に以前から連載している立ち食いそばルポをまとめたもの。都内のそば屋を訪問し、店主のバックグラウンドから店の立ち上げ、現在に至るまでインタビューしている。どれを読んでも、その店に行ってみたいと思わせる。茅場町のがんぎにもう一度行ってみたい。
独ソ戦」は、岩波新書にしては珍しく戦史を扱った本。独ソ戦の経緯についてかなり詳しく解説されるとともに、コミッサール指令や特別行動部隊、ソ連軍の捕虜の扱いに代表されるような絶滅戦争の側面についても詳しく書かれている。冷戦中は、西側ではヒトラーにかき回された清廉潔白な国防軍という神話、東側では祖国解放戦争という前提で見た戦史が伝えられていたが、冷戦終了後、欧米では独ソ戦の研究が進んでいる。ドイツ軍は戦略的なゴールを定めないままに独ソ戦に臨んだのに対し、ソ連軍は「作戦術」を確立し、複数の作戦を組み合わせて反転攻勢した。著者がいうには、ドイツはソ連の物量に負けたというよりはそもそも「作戦術」の面で劣っていたようだ。
「日本朝鮮戦争」は高校生の頃に一度読んだが再読。北朝鮮下士官と韓国の3人の青年を中心に話が進んでいく。北朝鮮が韓国に侵攻し、一時は釜山近くまで迫ったり、対馬北朝鮮が上陸したりするものの、アメリカや日本の参戦、北朝鮮への上陸作戦で終末を迎える。敦賀原発にミサイルが飛んできて大被害になる部分は、福島原発事故以降ではなかなか書けない内容だと思う。
「日本中国戦争」は20年近く前の作品だが初めて読んだ。日本朝鮮戦争と同じような世界観だが、中国で軍部がクーデターを起こして台湾へ侵攻するものの、華南、東北が北京中央政権に反旗を翻し、中国が分裂するという流れ。中国軍の将校、日本の4兄弟を中心に書かれている。ソ連崩壊後まもなく書かれているためか、「中国が分裂してCISのようなゆるやかな連合国家になる」ことを日本もアメリカも目的としている。これも、ウクライナとロシアが決定的に対立しているような現在では、なかなかそういう展開は書けないだろう。