スターリン - 「非道の独裁者」の実像 (中公新書) 横手 慎二 中央公論新社 2014-07-24 売り上げランキング : 87783 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
「非道の独裁者」―日本人の多くが抱くスターリンのイメージだろう。一九二〇年代末にソ連の指導的地位を固めて以降、農業集団化や大粛清により大量の死者を出し、晩年は猜疑心から側近を次々逮捕させた。だが、それでも彼を評価するロシア人が今なお多いのはなぜか。ソ連崩壊後の新史料をもとに、グルジアに生まれ、革命家として頭角を現し、最高指導者としてヒトラーやアメリカと渡りあった生涯をたどる。
非道の独裁者というイメージが強いが、是々非々で見直してみようという評伝。ヒトラーと異なり、現在もスターリンについては未だ評価が定まっていないのが現状なんだとか。特に、ソ連崩壊後の現在のロシアでも、強い指導者としてスターリンが一定の支持を得ている現状がある。1930年代の集団化・工業化も、それがあったからこそ独ソ戦に勝ち抜けた面もあると指摘する識者もいるようだ。
生い立ちから非合法運動時代、革命後の権力闘争、独ソ戦、死に至るまで簡単にまとめられているが、1点感じたのが、1920年頃のポーランド・ソ連戦争におけるワルシャワ近辺でのスターリンの指揮について触れられていないこと。トゥハチェフスキーの粛正の遠因にもなった当時のことは書いてあった方が理解が深まるのではないか。
読んでいて思うのは、レーニンが革命直後に苛烈な対応をしたことが前例となり、その後のソ連の非人道的な統治へとつながっていったのではないかということ。もし仮にロシア帝国がレーニンやスターリン並みの対応をしていたら、そもそもロシア革命の当事者は生きておらず、当然スターリンも何回も流刑になるまえに消されていただろう。一度苛烈な対応が染みつくと、その体制が変わるのは容易なことではないようだ。