蝉しぐれ

舞台は東北の小藩、海坂(うなさか)藩である。ある朝、小川のほとりで蛇に咬まれた隣家の娘を少年が救う場面から、この物語ははじまる。清流と木立に囲まれた、静かな城下組屋敷。少年の日の淡い恋と友情。そして突然の、父の非業の死。微禄の武士となった青年は、ふりかかる悲運と闘い、父の仇を討つべく、己を鍛えつづける。いまや遥かな存在となった初恋の女性への思いを胸に……。ドラマ・映画の原作にもなった、藤沢作品の代表的傑作。

数年ぶりに読んだがやはりいい作品。夜中に堤防の決壊に向かうシーン、父親が切腹させられ、遺骸を引き取るシーン、幼馴染と酔いつぶれるシーンなど、どれも胸につまされる。ただ、今回読み返した時には、最後の20年ほど経った後の章、主人公とお福様が会う章は蛇足な感じがした。

軍法会議のない「軍隊」:自衛隊に軍法会議は不要か

常に負のイメージで語られる軍法会議。またこれをもたない「軍隊」自衛隊
当然のごとく認識されている状況は果たして正しいのか? そもそも「軍法会議」とはどのような制度なのか?われわれは軍法会議、軍の司法制度の正確な知識をもっているだろうか?
憲法改正が議論される現在にこそ、すでに忘れ去られ葬り去られようとしている軍の司法制度に関する、いずれにも偏ることのない客観的かつ正確な情報を提示し、軍と司法の関係を問う。

硬いテーマを読みやすく書いている。憲法で特別裁判所が否定されているとはいえ、軍法会議が本当になくていいのかという著者の問題提起は考えさせられる。自衛隊法が軍刑法的な要素を含んでいることを初めて認識した。「軍旗はためく下に」が紹介されている。

偽装同盟

日露戦争に「負けた」日本。
ロシアの属国と化した地で、男は、警察官の矜持を貫けるのか。
日露戦争終結から12年たった大正6年。敗戦国の日本は外交権と軍事権を失い、ロシア軍の駐屯を許していた。3月、警視庁の新堂は連続強盗事件の容疑者を捕らえるが、身柄をロシアの日本統監府保安課に奪われてしまう。
新たに女性殺害事件の捜査に投入された新堂だったが、ロシア首都での大規模な騒擾が伝えられ……。
「もうひとつの大正」を描く、入魂の改変歴史警察小説、第二弾。

日露戦争で負けてロシアに占領されている日本での警察小説。前作に続いて面白い。

帝国の弔砲

ロシアで育った日系人の数奇な運命を描く、圧倒的歴史改変冒険小説!
舞台は日露戦争で日本が敗戦した世界。日系移民2世の登志矢は、革命の嵐に巻き込まれ数奇な運命に翻弄されていく。

大津事件の謝罪のために沿海州へ日本人移民を送り込んだ世界が舞台になっている。現地で生まれた主人公が、第一次大戦のロシア軍として従軍し、その後の内戦を経てスリーパーとなって日本に潜入する。最後が駆け足で少し消化不足だが面白かった。

豆腐の文化史 (岩波新書)

昔から広く日本人に愛され,今では健康食として世界を席巻しつつある豆腐.それはいつ,どこで誕生し,日本でどう受容されてきたのか.料理法や派生食品も含めて考察,さらに風土に根ざした様々な豆腐を日本各地にたずね,不思議な白い食べ物の魅力をトータルに描き出す.食文化研究の第一人者による渾身の書下ろし.

豆腐の歴史やどう社会に受容されてきたのか書いている。精進料理で重宝され、江戸時代には豆腐屋が職業として確立していたとか。沖縄の温かい豆腐が、本土復帰後、食品衛生法で一時期規制されていたというのを初めて知った。日本各地に様々な郷土料理としての豆腐があることを実感した。

日没 (岩波現代文庫, 文芸352)

小説家・マッツ夢井のもとに届いた一通の手紙。それは「文化文芸倫理向上委員会」と名乗る政府組織からの召喚状だった。出頭先に向かった彼女は、断崖に建つ海辺の療養所へと収容される。「社会に適応した小説」を書けと命ずる所長。終わりの見えない軟禁の悪夢。「更生」との孤独な闘いの行く末は――。足下に拡がるディストピアを描き日本を震撼させた衝撃作、待望の文庫化!

主人公の小説家がいつのまにか収容され、閉じ込められて拘禁される。後味が悪い結末で、救いようがない感じ。

事務次官という謎 霞が関の出世と人事 (中公新書ラクレ)

事務次官、それは同期入省の中から三十数年をかけて選び抜かれたエリート中のエリート、誰もが一目置く「社長」の椅子だ。ところが近年、セクハラ等の不祥事で短命化が進み、その権威に影が差している。官邸主導人事のため省庁の幹部が政治家に「忖度」しているとの批判も絶えない。官界の異変は“頂点”だけに止まらない。“裾野”も「ブラック」な労働環境や志望者減、若手の退職者増など厳しさを増す。いま日本型組織の象徴と言うべき霞が関は、大きな曲がり角を迎えているのだ。事務次官はどうあるべきか? 経験者や学識者に証言を求め、歴史や法をひもとき、民間企業や海外事例と比較するなど徹底検証する。長年、大蔵省・財務省をはじめ霞が関を取材し尽くした生涯一記者ならではの、極上ネタが満載。

2年に一度は、現職次官が不祥事で退職しているらしい。農水からも2人。しきりと、明治以来の硬直した官僚制云々と言ったり、結局何が言いたいのかよくわからない本だった。