未明の砦

共謀罪、始動。標的とされた若者達は公安と大企業を相手に闘うことを選ぶ。
その日、共謀罪による初めての容疑者が逮捕されようとしていた。動いたのは警視庁組織犯罪対策部。標的は、大手自動車メーカー〈ユシマ〉の若い非正規工員・矢上達也、脇隼人、秋山宏典、泉原順平。四人は完璧な監視下にあり、身柄確保は確実と思われた。ところが突如発生した火災の混乱に乗じて四人は逃亡する。誰かが彼らに警察の動きを伝えたのだ。所轄の刑事・薮下は、この逮捕劇には裏があると読んで独自に捜査を開始。一方、散り散りに逃亡した四人は、ひとつの場所を目指していた。千葉県の笛ヶ浜にある〈夏の家〉だ。そこで過ごした夏期休暇こそが、すべての発端だった――。
自分の生きる社会はもちろん、自分の人生も自分で思うようにはできない。見知らぬ多くの人々の行為や思惑が作用し合って現実が動いていく。だからこそ、それぞれが最善を尽くすほかないのだ。共謀罪始動の真相を追う薮下。この国をもはや沈みゆく船と考え、超法規的な手段で一変させようと試みるキャリア官僚。心を病んだ小学生時代の友人を見舞っては、噛み合わない会話を続ける日夏康章。怒りと欲望、信頼と打算、野心と矜持。それぞれの思いが交錯する。逃亡のさなか、四人が決意した最後の実力行使の手段とは――。
最注目作家・太田愛が描く、瑞々しくも切実な希望と成長の社会派青春群像劇。

トヨタを思わせる工場で働く非正規雇用の若者4人が主人公。田舎で夏休みを過ごす間に労働法制に目覚め、労働組合を立ち上げ、最後はストライキを起こす。問題意識を伝えたいのはよくわかるが、非現実的すぎて小説としては今一つ。

ドナルド・キーン自伝-増補新版 (中公文庫 キ 3-33)

私の人生は、信じられないほどの幸運に満ちていた――。
日本文化を世界に紹介して半世紀。ブルックリンの少年時代、一人の日本兵もいなかったキスカ島、配給制下のケンブリッジ、終生の友・三島由紀夫の自殺……。齢八十五に至るまでの思い出すことのすべて。2019年2月、96歳で逝去した、偉大な日本文学研究者が遺した決定版自叙伝。
新版に際し、「日本国籍取得決断の記」「六〇年の月日と終生の友人たち」の2篇を増補。

戦争前に日本語を学び始めてから、海軍通訳として従軍し、戦後は京大に留学する。出てくる友人たちが、三島由紀夫、阿部公房、大江健三郎、永井道雄、有吉佐和子などなど、昭和の文豪ばかりですごい。日本をここまで好きになってくれてありがたいことだと感じる。

バッタを倒しにアフリカへ (光文社新書)

バッタ被害を食い止めるため、バッタ博士は単身、モーリタニアへと旅立った。
それが、修羅への道とも知らずに……。『孤独なバッタが群れるとき』の著者が贈る科学冒険ノンフィクション!

秋田に住んでいた時に何度か新聞で話題になっていたが、食わずぐらいで読んでいなかった。ふと手に取ってみて、秋田にいるうちに読んでおけばよかったと感じた。

赤と青のガウン オックスフォード留学記 (PHP文庫)

女性皇族として初めて海外で博士号を取得された彬子女王殿下による英国留学記。待望の文庫化!
≪赤と青のガウン。それは、私が博士課程を始めたときからいつか着る日を夢みてきたものだ。五年間の留学生活中、何人もの友人が博士課程を無事修了し、オックスフォードを旅立っていく様子を何度も見送ってきた。晴れ晴れとした表情でこのガウンを身にまとい、学位授与式が行われるシェルドニアン・シアターから出てくる友人たちの姿は、誇らしくもあり、またうらやましくもあった。オックスフォード大学の厳しい博士課程を成し遂げた者しか袖を通すことを許されない赤と青のガウンは、くじけそうになったときにふと頭に浮かび、オックスフォードに来たときの自分に立ち返らせてくれる「目標」だった。≫(「あとがき」より抜粋)
英国のオックスフォード大学マートン・コレッジでの、2001年9月から1年間、そして2004年9月から5年間の留学生活の日々――。当時の心情が瑞々しい筆致で綴られた本作品に、新たに「文庫版へのあとがき」を収録。

5年かけて博士号をとられた留学の様子を、読みやすく分かりやすく、でも少ししんみりとさせられる語り口で書いている。真摯に研究対象に向かっておられてすごいと思う。

尚、赫々【かくかく】たれ 立花宗茂残照

関ケ原が戦場となったのは重なる偶発の結果だった!? 立花宗茂は将軍家光から〝天下分け目〟に関して考えを述べるよう命じられる。神君家康を軽んじる失言をすれば、将軍の勘気に触れる。だが真実を話さねばなるまい……天下無双と呼ばれた男の矜持が輝く歴史長篇

立花宗茂島原の乱にまで出陣したのだとか。そんなに長生きしていたことを初めて知った。関が原で西軍につきながら、旧領にもどったのは彼だけ。小説では、関が原の戦いの様子を、三代将軍家光に語っている。

裁判官も人である 良心と組織の狭間で

原発再稼働の可否を決め、死刑宣告をし、「一票の格差」について判断を下す――裁判官は、普通の人には想像できないほどの重責を負う。その重圧に苦悩する裁判官もいれば、個人的な出世や組織の防衛を優先する裁判官もいる。絶大な権力を持つ「特別なエリート」は何を考え、裁いているのか?
出世欲、プライド、正義感、情熱…生々しい感情が渦巻く裁判官の世界。これまで堅く閉ざされていたその扉を、粘り強い取材が、初めてこじ開けた。「週刊現代」連載時から大きな反響を呼んだノンフィクション「裁判官よ、あなたに人が裁けるか」に大幅な追加取材と加筆を行い、ついに単行本化。

司法行政に携わる裁判官がどんどん出世し、国策に反する判決を出す裁判官は徹底的に干されるのだとか。狭い世界だからそうしたコントロールができるのだろう。同じ宮仕えの身として身につまされる記述も多かった。

死の貝―日本住血吸虫症との闘い―(新潮文庫)

腹に水がたまって妊婦のように膨らみ、やがて動けなくなって死に至る――
古来より日本各地で発生した「謎の病」。原因も治療法も分からず、発症したらなす術もない。その地に嫁ぐときは「棺桶を背負って行け」といわれるほどだった。
この病に立ち向かうため、何人もの医師や住民たちが奮闘を始める。そして未知の寄生虫が原因ではないかと疑われ始め……。のちに「日本住血吸虫症」と呼ばれる病気との百年以上にわたる闘いを記録した歴史的名著。(解説・飯島渉)

山梨、広島、福岡佐賀の一部にだけあった日本住血吸虫症について丹念に記したルポ。原因の寄生虫の特定、媒介する貝の特定、そして貝の駆除のための気の遠くなるような作業など、半世紀前まで行われていたことに驚いた。戦後まもなく、日本の医師が中国に招かれて日本の対策を伝える様子も書かれている。