最近のもの

「愛を知ったのは…」は、チェチェン自爆テロを思いとどまった女性、北オセチア事件で子供を亡くした女性、チベット焼身自殺した女子生徒の遺族などに取材したルポ。それだけでなく、元スペツナズの兵士やポル・ポト派の少年兵など、加害者側にも取材している。殺害や拷問の様子をことさらに詳しく書くのではなくふわりと書きながらも、著者が取材しながら感じた感情が伝わってくる。加害者に対してもそれを断罪することなく接しているのが印象的。最終章では、グアンタナモで15年も拘束されたモーリタニアの男性を扱っているが、彼は何の証拠もないまま自国政府からアメリカに渡された。私たちの政府(=日本政府)は、同じようにアメリカから要求されたとき、どう対応するだろうかという問いが重く感じる。どの章も重いテーマながら、読んだ後に少しだけでも救いが見える気持ちになる。
「「成田」とは何か」は宇沢先生の著作。著者が運輸省からお願いされてこの問題に関わるところから書いている。この問題がここまで深刻だったのがわずか30年前というのが驚き。今や、成田問題の存在を知る日本人のほうが少ないのでは。空港利用者も意識することもないだろう。著者は、駅は地域に好影響があるが空港は悪影響があるというが、その違いがいまいち理解できない。要は、地権者のコンセンサスを得た開発かどうか、成田の場合はそこのプロセスが拙速だったということにつきるのでは。空港反対派に寄り添う姿勢が、ややひいき倒しに感じる。
観光公害」は京都に住む著者がオーバーツーリズムについて書いたもの。花見の時期には電車が満員になったり、バスが混雑して地元の住民が乗れなかったり、無遠慮にカメラを向ける観光客に悩んでいるといった具体例が紹介されている。国内がインバウンドを呼び込もうという一色になっている中で、こういう問題提起は必要だと思うが、ではどうすればという部分がよく分からない。
「虫けらの魂」は、秋田魁新報社の元記者の手記で、魁新報社の経営陣の腐敗を告発している。著者は、旧岩城町のゴルフ場の経営再建のために同社から送り込まれ、新たなコースを整備するなどの手をうっていくが、そのために県に圧力をかけ、治山事業でコースを工事させたりしている。その後、大曲支局長へ左遷され、経営陣による会社の私物化を告発するためにこの本を書いたようだ。本人も五十歩百歩じゃないかという気もするが。昭和の頃の秋田県内の様子が興味深い。
「バブル入行組」、「花のバブル組」、「ロスジェネの逆襲」、「銀翼のイカロス」はいずれも半沢直樹もの。今さらながら読んだが確かに面白いし、次が気になってページをめくりたくなる。「イカロス」はJALの破綻前後のことをモチーフにしているようで、なんとなくモデルの政治家の顔が想起される。
「民王」は、総理大臣とその息子の体が入れ替わってしまう小説。総理だけでなく、野党第一党の党首なども実は入れ替わってしまったという設定。突拍子もない話だが、漢字を読めない総理は、当時の総理を揶揄しているように思えて面白い。
陸王」は、行田の足袋業者がマラソンシューズ開発に乗り出す話、「下町ロケット」は、元研究者の社長が率いる中小企業がロケットエンジンのバルブ製作に乗り出す話で、構成は同じようなものだがこれも面白い。
「鉄の骨」は、談合をテーマにしていて重い題材だが、若手ゼネコンマンの主人公に少し感情移入してしまった。