最近のもの

街道をゆく」は秋田編。象潟、秋田市能代、鹿角と巡っている。空港から象潟まで運転したタクシーの運転手が占守島の生き残りで、終戦後の占守島の戦いについても触れられている。司馬も満州の戦車隊の生き残りで、訪れる象潟の住職とも同じ戦車隊だったのだとか。また、新屋地区の砂害を防ぐための植栽の話もあったり、鹿角では内藤湖南について回想している。一つ、秋田に来て素朴な農家や農村の姿を見たかったが、新素材で建て替えられていて風情がない云々と嘆いていたが、大変失礼な話で憤りを感じた。
「カルマ神仙教」は、オウム真理教の捜査に実際に携わった元公安警察の警察官が書いた小説。オウムの一連の事件の頃はまだ小学生だったので、こういう流れだったのかと改めて認識した。多くの読者はモデルを頭に浮かべながら読むだろうからなんとなく話の流れについていけるが、これが仮にモデルがない小説であれば読みづらいことこの上ない。また、著者を思わせる主人公があまりに有能で、自画自賛もここまでくれば相当なもの。在職当時の同僚や上司は、これを読んでどう思っているのだろう。教団内の情報提供者のつてで、サリン事件前にサティアンの内部を訪れる様子がリアルだが、そんなことが本当にあったのだろうか。ラストが微妙でいまいちだった。
クレムリン」は、モスクワのクレムリンから見たロシア史で、モンゴル襲来の前からプーチンまで書かれている。増築、改築が繰り返されながら、共産政権を含め、時の政権がクレムリンを利用しているのが感じ取れる。あくまでもモスクワ、クレムリンを中心にした著述なので、日露戦争など辺境で起きた出来事の記述は少ない。
「ウルトラランナー」は、長野県売木村というところでウルトラマラソンに取り組む重見さんという方を扱った本。100kmのウルトラマラソンや、24時間走り続けるイベントなど、超人的な走り方をする。高校時代まで実力あるランナーで、大阪ガスに入社し頭角を現すも、体調不良もあり退社。村でトレーニングしたことをきっかけに、村の地域おこし協力隊員として、専属ランナーとして各地の大会に出場し、村の存在をPRしている。またスポーツ合宿の受入環境整備に尽力しているとのこと。大会に、村長や村民の人たちが集まって応援に行く様子が感動的だった。
「トッカイ」は、整理回収機構に集められた元住専職員の人たちを取り扱ったもの。破綻した金融機関の職員が集められて、少しでも債権を回収するために激務をこなしていく。あの手この手で返済を逃れようとする人たちや、反社会的勢力などを相手にする仕事はとてもハードだったのだろうと思うが、読み応えがあった。
「プライベートバンカー」は、日本を飛び出してシンガポールで超富裕層向けの金融サービスを提供する人たちを扱ったもの。日本を脱出して法人税が極端に安いシンガポールに移住する富裕層や、日本で税金を払わないようにするため、海外居住という実績をつくるために半年以上海外で過ごす富裕層が彼らのターゲット。若くして資産を形成し常夏の国へ移住するのはいいものの、限られたコミュニティーの中で少しずつ生きがいをなくしていく富裕層の様子がこわい。そういう人たちは、日本に住み続けて定年を迎えたとしても同じようになってしまうのかもしれないが。
「石つぶて」は、外務省機密費横領事件を追う警視庁捜査第2課を舞台にしたノンフィクション。その情報を入手したところから、容疑者の外務省室長の任意の取調べ、その捜査を任された別の班の警察官まで、一人ひとりの活躍がわかる。現場の警察官である彼らと、その上司であるキャリア警察官僚とのやりとりも面白い。当時の捜査二課長は筋の通った人だったようだ。団塊の世代である彼らのような叩き上げ警察官が退職した後、汚職事件の摘発は激減している。また、取り調べを受ける側の外務省室長についても、高卒で入省しながら徐々に頭角を現し、高卒職員向けの研修冊子も刊行するなど、ただの悪人に描いておらず興味深かった。
黒部の太陽」は黒四ダム建築に挑んだ建設会社や関西電力の人たちを追ったもの。ダムそのものもそうだが、そこに通じるまでのトンネル貫通工事が主に取り上げられている。戦後間もなくの頃で交通事情も悪いなか、水が噴き出す壮絶な環境下で働き、越冬するのは頭が下がる。荷物運搬用のロープウェイのようなものに乗って移動中、それがバランスを崩して谷に落ちてしまいそうになる場面があり、どきどきした。戦前の同様の工事を扱った「高熱隧道」と並び読み応えがある。
ユニクロ帝国…」は、ファーストリテイリングの成長とその裏を書いている。柳井さんが若い幹部を次々と登用しては排除していく様子や、営業上の裁量がほとんどなく追い詰められながら社員が働く店舗の様子が描かれている。中国の下請け工場の様子も興味深い。柳井独裁体制は本書が出てから10年近くたつ今も変わっておらず、もう70歳を越えているが、いつまで続くのか。世襲するのかも含め気になる。
「地面師」は、他人の土地を勝手に転売し巨利を得る犯罪者集団を追ったもの。なりすましによる土地転売は、いろいろな関係者を間に挟むことで発覚を難しくしている。新橋駅の近くに土地を持っていた地主の高齢女性が不審な死をとげていることが紹介されていておそろしい。