最近のもの

レディ・ジョーカー」は以前読んだが再読。最初から最後まで緻密に組み立てられた小説という印象はかわらない。以前読んだときは全く読み飛ばしていた競馬場のシーンが、今あらためて読むと面白くまたリアル。PATが普及していない時代だから、馬券を代わりに買ってもらったりとかそういう関係が生じている。追う立場の合田と追われる立場の半田のお互いの心理状態が、徐々に相似関係になっていき、合田が何度も半田宛ての手紙を書くようになるのが興味深い。

東成瀬村」は、題名には学力日本一の村とあるものの、教育について書いたものではなく、東成瀬村のルポのようなもの。以前から同村へ通っていた著者が、移住してきた人を含め、村の人々との関わりや、村の歴史を述べている。村の冬の積雪量はとても多く、秋田市では考えられないほど。村の小学生が仙台へ修学旅行に行って楽天戦を観戦したとき、財布を置いて席取りをするというのが少し面白かった。

教育委員会」は、戦後の教育委員会の歴史について述べるとともに改革案も書いたもの。著者によれば、現在の教育現場の問題の根幹は、文科省から都道府県教育委員会、市町村教育委員会までの縦の統制にあり、それが現場のひずみを生み出しているという。終戦直後、それまで国粋教育を推進していた文部省が解体されずに残ったのは、内務省を解体しようとするGHQと文部省との連携があったためだとか。

「白衛軍」は、10月革命後のキエフを舞台にした小説。著者は実際に当時のキエフで何度も支配者が変わるのを体験していたそうだ。貴族の兄弟たちが主人公だが、状況を理解するのに骨が折れる小説だった。

ウクライナ」は5年ほど前に一度読んだが白衛軍を読んだ後に再読。元ウクライナ大使が書いたもの。ウクライナキエフ・ルーシ公国以来の歴史があるが、隣国のロシアやポーランドオーストリアにその時々の状況に応じて支配されていた。特に、ウクライナ西部は第二次大戦後までロシアの直接支配下におかれることがなかったそうだ。白衛軍でも題材になっている第一次大戦時のキエフは、単純に赤軍、白軍の戦いではなく、赤軍ウクライナ中央ラーダ、ドイツに擁立されたヘトマン国家、そこに白衛軍やマフノ軍などが複雑に入り乱れる、とても理解しにくい状況だった。読み返しても前回読んだ内容をほとんど忘れているので自分の記憶力のなさにがっかりする。

「競馬の世界史」はイングランド以降の競馬の歴史を、その時々の名馬を紹介しながらたどっている。貴族たちの間から自然発生的に生まれたイギリス系では民間団体が主催し、大陸や日本では、国家が軍馬改良の目的で行ったため、国営に近い形で主催されているという、それぞれの歴史からなる違いがあるらしい。

「螺旋」は図書館でたまたま見かけて借りた、スペインの作家の作品。出版社の編集者である主人公が、ベストセラー小説の著者を探し出すという特命をおびて山村にしばらく滞在することになり、そこで様々な村人と遭遇しながら日々を過ごす。著者の特徴は6本指ということだが、村には6本指の人がごろごろいて混乱する。最初は妻と一緒に来ていたが、特命をおびていたことがバレてしまい妻は帰ってしまう。最後には、予想外のベストセラー小説の著者が判明する。また、このメインストーリーの他にもう一本、麻薬中毒者がそのベストセラー小説を読みながら麻薬中毒からの脱出を目指す話も、交互に綴られている。面白い小説だった。

医学生」は、加賀谷書店でおすすめしていた文庫。1993年に発表されたものでもう四半世紀前。昭和40年代の創設間もない秋田大学医学部を舞台に、4人の学生が卒業するまでを描いている。当時は、有名医大にいけなかった学生が都落ちのような気持ちで秋田に来ていたようだ。今とは違い、大学の回りは田んぼばかりで、都会からきた学生にとってはより都落ち感も強かったのだろう。創設当初の筑波もそうだったのかもしれない。学生一人一人のキャラクターがよく描かれていて、感情移入する場面もあり、一気に読んでしまった。実習で同じ班だった4人の学生が協力し合いながら卒業を迎え、それぞれ秋田を去って行くところが特に良かった。10月に雪が舞っていたり、5月に桜が咲いていたりと、今の秋田とは気候も違うことが感じられる。時代を感じるいい小説だった。