硫黄島 国家に翻弄された130年

小笠原群島の南方に位置する硫黄島。日本帝国が膨張するなか、無人島だったこの地も一九世紀末に領有され、入植・開発が進み、三〇年ほどで千人規模の人口を有するようになった。だが、一九四五年に日米両軍の凄惨な戦いの場となり、その後は米軍、続いて海上自衛隊の管理下に置かれた。冷戦終結後の今なお島民たちは、帰島できずにいる。時の国策のしわ寄せを受けた島をアジア太平洋の近現代史に位置づけ、描きだす。

硫黄島は第二次大戦のイメージしかないが、そこにも戦前から住民が住んでいて生活を営んでいたことを指摘している。企業の小作人として苦労し、疎開させられた後も住民100人以上が軍属として残り、10人しか生還しなかったというのは知らなかった。戦後も米軍、自衛隊の基地として使用し、住民の帰還が許されていない。帰還させない根拠が、国土庁小笠原諸島振興審議会の昭和59年の答申だというのも初めて知った。今の国交省では、小笠原は奄美と同じ部署が扱っていて専従職員も少ないが、重い過去があることを改めて認識。また、遺骨収集について、平成22年の民主党政権で予算が増額されたというのも初めて知った。今の職場で民主党政権を評価することを言うと奇人扱いになるが、いいこともしていたという証左ではないか。そのように、貴重な気づきを与えてくれた本だが、硫黄島侵攻の際に、米軍が、「空母艦載機B24数百機で空爆」などと書いているのが残念。