「この小説の意図は,完全に美しい人間を描くことです.この世にこれ以上むずかしいことは,ありません」――素直さと純粋さ,そして深い共感能力と愛の心をもった主人公ムイシュキン公爵は,すべての人々から愛される.さまざまな情念の渦巻く現実の世界にあって,はたして彼は,和をもたらすことができるだろうか.
久しぶりに再読。どの登場人物も饒舌ですごい。
舞台は東北の小藩、海坂(うなさか)藩である。ある朝、小川のほとりで蛇に咬まれた隣家の娘を少年が救う場面から、この物語ははじまる。清流と木立に囲まれた、静かな城下組屋敷。少年の日の淡い恋と友情。そして突然の、父の非業の死。微禄の武士となった青年は、ふりかかる悲運と闘い、父の仇を討つべく、己を鍛えつづける。いまや遥かな存在となった初恋の女性への思いを胸に……。ドラマ・映画の原作にもなった、藤沢作品の代表的傑作。
数年ぶりに読んだがやはりいい作品。夜中に堤防の決壊に向かうシーン、父親が切腹させられ、遺骸を引き取るシーン、幼馴染と酔いつぶれるシーンなど、どれも胸につまされる。ただ、今回読み返した時には、最後の20年ほど経った後の章、主人公とお福様が会う章は蛇足な感じがした。
常に負のイメージで語られる軍法会議。またこれをもたない「軍隊」自衛隊。
当然のごとく認識されている状況は果たして正しいのか? そもそも「軍法会議」とはどのような制度なのか?われわれは軍法会議、軍の司法制度の正確な知識をもっているだろうか?
憲法改正が議論される現在にこそ、すでに忘れ去られ葬り去られようとしている軍の司法制度に関する、いずれにも偏ることのない客観的かつ正確な情報を提示し、軍と司法の関係を問う。
硬いテーマを読みやすく書いている。憲法で特別裁判所が否定されているとはいえ、軍法会議が本当になくていいのかという著者の問題提起は考えさせられる。自衛隊法が軍刑法的な要素を含んでいることを初めて認識した。「軍旗はためく下に」が紹介されている。
小説家・マッツ夢井のもとに届いた一通の手紙。それは「文化文芸倫理向上委員会」と名乗る政府組織からの召喚状だった。出頭先に向かった彼女は、断崖に建つ海辺の療養所へと収容される。「社会に適応した小説」を書けと命ずる所長。終わりの見えない軟禁の悪夢。「更生」との孤独な闘いの行く末は――。足下に拡がるディストピアを描き日本を震撼させた衝撃作、待望の文庫化!
主人公の小説家がいつのまにか収容され、閉じ込められて拘禁される。後味が悪い結末で、救いようがない感じ。