蝉しぐれ

舞台は東北の小藩、海坂(うなさか)藩である。ある朝、小川のほとりで蛇に咬まれた隣家の娘を少年が救う場面から、この物語ははじまる。清流と木立に囲まれた、静かな城下組屋敷。少年の日の淡い恋と友情。そして突然の、父の非業の死。微禄の武士となった青年は、ふりかかる悲運と闘い、父の仇を討つべく、己を鍛えつづける。いまや遥かな存在となった初恋の女性への思いを胸に……。ドラマ・映画の原作にもなった、藤沢作品の代表的傑作。

数年ぶりに読んだがやはりいい作品。夜中に堤防の決壊に向かうシーン、父親が切腹させられ、遺骸を引き取るシーン、幼馴染と酔いつぶれるシーンなど、どれも胸につまされる。ただ、今回読み返した時には、最後の20年ほど経った後の章、主人公とお福様が会う章は蛇足な感じがした。