今の日本では、ほぼ失われつつある身体技法「頭上運搬」。
かつては日本各地で行なわれており、高齢の方の中にはその記憶をとどめている人もいる。
経験した方は、「誰でもできた」「やろうと思えばできる」と言う。しかし、他の身体技法や知恵と呼ばれるものと同様、その経験が三世代も途切れると、後の世代には想像もつかないものとなる。ある身体技法ができる、ということはどういうことか。なぜできるようになるのか、なぜできなくなるのか。
それをしていた頃としなくなってからの、自らの身体への理解や意識に差はあるのか。本書では、沖縄や伊豆諸島をはじめ日本各地や海外に頭上運搬の記憶と痕跡を訪ねる。
話題は生活と労働を支えていた身体技法へと広がる。
今では想像すら難しい頭上運搬が、少し前までは行われていたことを追っている。高齢の経験者に聞き取りをしているが、いまがぎりぎりのタイミングだったのかなと思う。アフリカの民俗を研究する研究者は、現地に行って必要に迫られて頭上運搬を習得するらしい。