樺太一九四五年夏 ―樺太終戦記録 (ちくま学芸文庫)

第二次大戦における沖縄戦が「国内唯一の地上戦」と語られることがある。しかし実際にはもう一つの熾烈な地上戦があった。旧日本領南樺太へのソ連侵攻である。1945年8月9日朝、ソ連軍は突如日ソ中立条約を破棄し、日本軍の軍事施設、警察施設を攻撃する。侵攻を想像しなかった日本側には、戦車の鋼板を打ち破れる火砲は数門あるのみ。残された手段は破甲爆雷を背負って飛び込むしかなかった。満足な武器もない兵士たちはわが家の見える丘の上で死んでいき、守る者のいない市民は地獄の苦しみに突き落とされた。わずか2週間で4千人以上の戦死者を出した悲劇の記録。

1972年の本がちくま学芸文庫で復刊された。樺太戦は通信局員の少女の自決がよく言われるが、ソ連軍の侵攻から8月23日の停戦まで、国境付近から真岡の戦い、さらには北海道への避難の様子まで、当事者の手記を元に丹念に描いている。15日の終戦後にも戦闘が激化して亡くなった人が多いことに暗然とする。