彼女はマリウポリからやってきた

半世紀以上を経て娘が探し当てた亡き母の生
 ロシアとウクライナの血を引くドイツ語作家が、亡き母の痕跡と自らのルーツを見いだす瞠目の書。
 母エウゲニアは、著者が10歳のとき若くして世を去った。幼い娘が知っていたのは、母がマリウポリで生まれたこと、第二次世界大戦中、両親が強制労働者としてウクライナからドイツに連行されたこと、曾祖父が石炭商人、祖母がイタリア人だったらしいことくらい。母の運命を辿ろうとこれまで何度か試みたが、成果はなかった。ところが、2013年のある夏の夜、ふと思い立ってロシア語の検索サイトに母の名前を打ち込んでみたところ、思いがけずヒットする。ここから手探りの調査と驚くべき物語が始まる。  「ここ一年ほど悲しい姿ばかりが報道されたウクライナマリウポリだが、その多文化都市としての輝かしい歴史と、そこに生きた作者の親族の運命が、この小説には知的なユーモアと息苦しいほどの好奇心をもって描かれている」(多和田葉子氏)
 ウクライナの船主、バルト・ドイツの貴族、裕福なイタリア商人、学者、オペラ歌手など、存在すら知らなかった親類縁者の過去が次々と顕わになり、その思いもよらぬ光景に著者は息を呑み、読者もそれを追体験する。忘却に抗い、沈黙に耳をすませ、失われた家族の歴史(ファミリーストーリー)を永遠にとどめる世紀の小説。ライプツィヒ書籍見本市賞受賞作。

ウクライナから戦争中にドイツに強制連行され、そのままドイツにとどまったが自殺した著者の母の一生が書かれている。母の姉がソ連で逮捕されて強制収容所に入れられていたことも調べる過程で明らかになる。ロシア革命後のマリウポリの内戦の様子、ソ連強制収容所の様子、ドイツの東部労働者の様子など、どれも現実とは思えない重たい気持ちになる。そして、戦後になっても、ドイツでは戦勝国のロシア人として見られ、かといって母国に帰ると利敵行為として処罰される。やるせない気持ちになる。