セロトニン (河出文庫)

巨大化企業モンサントを退社し、農業関係の仕事に携わる46歳のフロランは、恋人の日本人女性ユズの秘密をきっかけに“蒸発者”となる。ヒッチコックのヒロインのような女優クレール、図抜けて敏捷な知性の持ち主ケイト、パリ日本文化会館でアートの仕事をするユズ、褐色の目で優しくぼくを見つめたカミーユ…過去に愛した女性の記憶と呪詛を交えて描かれる、現代社会の矛盾と絶望。

ウエルベックの文庫。本の雑誌社のおすすめ文庫王国の現代小説部門で一位だった。主人公は農業関係の仕事をしていて、貴族階級出身の旧友は酪農を営んでいるが、EUのクォーター制の廃止に抵抗して農家デモを起こして自殺するなど、フランスの農業問題が扱われていて興味深い。何事にも気力をなくして蒸発し、抗鬱剤がないと生活できない主人公は、村上春樹の小説を暗くしたような印象も受ける。