人間の條件

人間の條件〈上〉 (岩波現代文庫)人間の條件〈上〉 (岩波現代文庫)
五味川 純平

岩波書店 2005-01-18
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珍しく棉のような雪が静かに舞い降りる宵闇、一九四三年の満洲で梶と美千子の愛の物語がはじまる。植民地に生きる日本知識人の苦悶、良心と恐怖の葛藤、軍隊での暴力と屈辱、すべての愛と希望を濁流のように押し流す戦争…「魂の底揺れする迫力」と評された戦後文学の記念碑的傑作。

半世紀前の五味川純平の傑作。

上中下の三巻だが、上巻では主人公が満州で招集免除と引替に炭坑の労務管理の仕事に就き、中国人労務者の処刑に立ち会うも、

その中止を叫んで憲兵隊に捕まり、拷問を受け招集を受けるまで。中巻は、関東軍の内務班での理不尽な生活と、国境周辺でソ連侵入に備えるところまで。下巻は、ソ連軍との戦闘、そして生き残った主人公の満州での逃避行、ソ連の捕虜になるも再度脱走して放浪するところまで。

小説ではあるが、著者もこの主人公とほぼ同様の経緯をたどったことが巻末で記されている。ソ連侵攻の際は、著者の部隊は150人強いて、4人しか生き残らなかったとか。

中巻では内務班の様子が書かれており、真空地帯や神聖喜劇と並ぶ軍隊小説としても読むことができるし、下巻のソ連との戦闘、またその前夜の古兵への叛乱の様子も興味深い。半世紀前の小説なので女性に対する記述が古めかしいが、いずれにしても傑作であることは論を待たない。