私の日本地図2 上高地付近

日本全国を行脚した民俗学者が、生前刊行した著作集のリニューアル版。昭和40年、信州・上高地付近の地域を歩いた際の記録12編が収められる。土地の多くは、谷奥に潜むいわゆる「僻地」。古道を歩けば「実に平凡なさびしいところ」(「桧峠」)、「全く忘れられた世界」(「鎌倉往還」)と、描写には物悲しさが漂う。宮本はこうした厳しい環境に人々が住み着き、くらしを営む過程に目を向けた。例えば番所はまず養蚕・林業が地域の収入を支え、のち、スキー客・学生向けの民宿業が発展した。何もなかった場所に、自身の手で「経済」を生み出していく。その創意工夫の姿勢は、与えられた仕事に従事することの多い現代人にとって参考になる。 宿の主人に土地の歴史を何時間でも訊ねたという宮本の熱量が時代を超え届く。

観光案内ではなく、昭和40年前後の現地の様子を描いている。郡境が戦後まもなく変更になった際の記念碑が奈川村にあるらしい。戦後の物資不足のころ、大変苦労した名残なんだとか。この巻は、学生時代の恩師の思い出を書いていたり、他の巻以上にエッセイの感が強い。