最近のもの

プルースト効果…」は秋田の潟上市出身の小説家の作品。この作品を紹介する記事が昨年の秋田魁新報に載っていたり、今年の正月版にも著者が寄稿されていて、地方での生活への違和感、都会への憧れ、離れて感じる地元への思いなど、その内容が印象的だった。中編が4つ納められていて、どれも「秋田」と地名は出てこないものの、秋田南高校とおぼしき地方の高校を舞台にしている作品が多い。年代も近く、同じ頃にもっと田舎の高校生活を送った身としては、読んでいて共感できるところもあるし恥ずかしく感じるところもあって、読み応えがあった。地方から進学で上京した人にぜひ読んでほしい。
檸檬のころ」は、佐々木愛から数年前の世代の、同じく地方高校を舞台にした短編集。こちらは横手高校がモチーフになっているようで、駅前のビルの様子や裏山などリアルに書かれている。電車通学の様子が、満員電車の都市部とは違って微笑ましい。
「幼な子の聖戦」は、青森の田舎の首長選挙を題材にした小説。主人公が県議に弱みを握られて、村長に立候補した同級生の選挙妨害に従事させられるが、最後に爆発する。古市氏が自分の小説の参考にして話題になった「天空の絵描きたち」も納められていて、若い女性が死と隣り合わせのビル窓清掃で働く様子を書いており、そちらも面白い。
「アウターライズ」は、東日本大震災から数年後にもう一度東北を津波が襲ったが、奇跡的に犠牲者が6人と少なく、その後に東北が独立する話。東北国は、ベーシックインカムを導入していたり、医療は無料だったり、阪神大震災の被災者が防衛隊の隊長をしていたりする。
日本沈没」は古典的作品にもかかわらず初めて読んだが、プレート移動の理屈を延々と説明する場面が予想以上に長かった。首都直下型地震の被害が恐ろしい。四半世紀後に書かれた第二部では、メガフロートを日本が密かに建設しようとする試みを描いていて面白い。前作で行方不明になった小野寺がカザフスタンで難民リーダーとなっている。
「R帝国」は、ある島国を舞台にしたディストピア小説。明らかに近年の日本がモチーフになっていて、共謀罪の条文がそのまま出てきたりする。国家を支配している「党」とそれに踊らされる国民の様子が恐ろしが、記憶を失う薬を飲まされて第二の人生を送ることになる主人公が、実は記憶が消えていないというのが一番恐ろしい。これを連載していたのがよりによって政権寄りの読売新聞というのがすごい。
「あなたが消えた夜に」は、通り魔事件を題材にしている。事件の内容が、関係者の証言でどんどん変わっていく様子がおもしろい。
「教団X」は、とある宗教団体をモチーフにした小説で描写がどぎつい。
「安倍官邸…」は森友事件を取材していたNHK記者が書いた本。今年の春に、自殺された財務局職員の手記が文春で公表されて改めて脚光をあびている。著者が取材で掘り起こして、初めて明らかになった事実も多いのだろうと思うが、この本では、自分がいかに頑張って取材先と関係を構築し、特ダネを引き出したかという自慢話が延々と続く。NHK内部のディレクターとの感情的なメールのやりとりもこれ見よがしに転載していて、自己顕示欲がとても強い人なんだなと感じさせるし、同じ職場で働きたい人とは思えない。タイトルに「安倍官邸」とあるが、官邸からどんな圧力があったのかは一切書かれておらず、題名に偽りあり。
「人類資金」は福井晴敏の作品。10年以上ぶりに著書の作品を読んだ気がするが、同氏の作品の定番どおり、中年男性のさえない主人公と超人的な能力を持つ若手が徐々に心を通わせながらなんだかんだで事態を解決する。マネー資本主義に変わる分配資本主義の確立がテーマだが、なぜそれが途上国へPDAを配ることに直結するのか。