最近のもの

「人間の運命」は全7巻の超大作。芹沢本人を思わせる森次郎が苦学しながら帝大に進学、様々な人々との出会い、留学、空襲体験などが描かれている。両親が天理教だったため幼少期から大変苦労した様子がわかるし、いわゆる土俗的なものから抜け出ようと足掻く様子が、戦前の日本の様子そのものに重なって見える。日本版の教養小説で、一度は読んでみるべきだと思う。

「てんやわんや」は、戦後すぐに宇和島でしばらく過ごした著者の体験が反映されているという小説。戦争の影響をさほど受けなかった当地の様子や、高知との県境の山地の様子が良く書かれている。話の内容もそれなりに面白い。

ストリートビュー」は雑誌の連載をまとめたもので、雑誌で読む分にはそれぞれ面白い記事なのだが、それがそのままなんの編集もされずに掲載されているので、それぞれの記事が単発で短く、突っ込み不足のまま終わってしまっている感がある。雑誌の連載をそのまま本にしてもダメという好例。

「昭和解体」は国鉄分割民営化の経緯を丁寧に追った大作。敗戦後に引揚者・復員者を大量に受け入れた国鉄は、慢性的に余剰人員を抱える構造のなかで赤字体質を改善できず、徐々に追い込まれていく。当局によるマル生運動は、国労側の反発で不発に終わり、そこで労組側が得た現場協議制度によってさらに労使関係が悪化していく様子が書かれている。遵法闘争やスト権ストなどの様子はほとんど知らないことだったので勉強になった。結局は、悪化した労使関係を、悪い労組と協力的な労組に色分けし、国労を潰すことで総評、社会党の勢力を弱めることが、分割民営化の出発点。

政治との関わりも赤裸々に書かれている。国鉄のキャリア組は「学士」といわれ、その中のいわゆる改革三人組が、臨調や党の国鉄再建小委と密接に連携をとりながら分割民営化に導いていったこと、田中角栄が倒れたことが、国鉄内の「国体護持派」の動きを弱めていったことも書かれている。分割民営化後30年が経過したが、当時の趣旨が体現されたといえる状況なのかどうか。最大の組織いじりの実例として読まれるべきものだと思う。

「裏日本」は昔の岩波新書で、新潟大学の教授が書いたもの。表日本の準周辺としての北陸の明治以降の動きを追っている。当時の巻町の原発住民投票など書かれていて興味ぶかい。

「幕末・戊辰戦争」は、政治的な状況よりも純粋に軍事的な観点から、当時のそれぞれの戦いの様子を追ったもの。軍事の天才と評されることが多い大村益次郎に対する評価が低いのが面白い。江戸城開城以降の北関東の戦いはさらっと流す本が多い中で、丁寧に動きが書かれているので勉強になります。

戊辰戦争」は、何年か前にも一度読んだが改めて再読。奥羽越列藩同盟側から見た戊辰戦争の流れが書かれている。奥羽政権は自分たちのビジョンを持っていたとかなり持ち上げているが、本当にそうだったのか?以前読んだときも感じたが、官軍側も世良修蔵に全ての罪をなすりつけているという指摘が印象的。