闇を裂く道

闇を裂く道 (文春文庫)闇を裂く道 (文春文庫)
吉村 昭

文藝春秋 2016-02-10
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熱海―三島間を短時間で結ぶ画期的な新路線・丹那トンネル大正7年に着工されたが、完成までに16年もの歳月を要した。けわしい断層地帯を横切るために、土塊の崩落、凄まじい湧水に阻まれ、多くの人命を失うという当初の予想をはるかに上回る難工事になった。人間の土や水との熱く長い闘いを描いた力作長篇。

大正~昭和初期の東海道線丹那トンネルの工事を題材にしている。同じ著者の高熱隧道同様、淡々とした描写ながらリアリティがある。丹那トンネル開通で終わるのではなく、その後の弾丸列車構想、戦前の工事着手から中断、そして戦後の新幹線まで書いているのが良い。

また、丹那トンネル丹那盆地の地下を通っているが、水が豊かだった盆地がトンネル工事が進むにつれて渇水に悩まされる様も書かれている。鉄道省は当時としてはかなり前向きに住民対応をしているように思う。トンネル工事が水不足の原因だと認めるのはかなり勇気が必要だったはず。途中で巻き込まれる県庁職員の奮闘ぶりには感銘を受ける。巨額の費用がかかる住民対策をする裏で、大蔵省と折衝していた事務方がいたんだろうなあとも思う。