開戦神話 - 対米通告を遅らせたのは誰か

開戦神話 - 対米通告を遅らせたのは誰か (中公文庫)開戦神話 - 対米通告を遅らせたのは誰か (中公文庫)
井口 武夫

中央公論新社 2011-07-23
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真珠湾奇襲を「卑怯なだまし討ち」にした犯人は誰か。在米日本大使館の連絡ミスとされてきた通説にメスを入れ、意外な真実を炙り出す。

なぜ、真珠湾攻撃の直前に手交するはずだった通告が遅れたのかに迫った本。日本大使館の事務処理が遅かったからだという話は確かによく聞くが、本当はそうではなく、出先に対米開戦時期を最後まで教えず、通告文をぎりぎりまで送らなかった本省に非があるというのが著者の主張。そして、ぎりぎりまで送らなかった裏には、参謀本部瀬島龍三が糸を引いていると。

まず、対米通告文が開戦のための最後通牒ではなく、内容はあくまでも交渉の打ち切りを示すにすぎなかったということを初めて知った。そのため、仮に真珠湾攻撃の直前に渡すことが出来ていたとしても、結局だまし討ちだというそしりは免れられないとか。そして、真珠湾攻撃の1時間以上前にはマレー半島で対英戦闘が開始されているが、そちらは完全に無通告だったというのもいわれてみれば確かにそう。

対米の最後通告文は14分割されて日本大使館に打電されたが、最後の14番目の送信が予定より15時間も遅れ、さらに決裁段階でつけられていた大至急指定が意図的に外されていた。そのため、日本大使館ではそもそも間に合わなかったという。ちょうど最後通告文の打電と入れ違いに、ルーズベルトの対天皇親電が入り、参謀本部でそれを解読する間14番目の送信が差し止められたというのが、15時間も遅れた理由だという。それは、参謀本部通信課の戸村少佐と作戦課の瀬島少佐が謀議し、そのように介入したという。ただ、瀬島少佐が犯人だと名指しすることは著者は避けていて、示唆するだけ。このような時、瀬島龍三という人物は、良かれ悪しかれ責任を負わせやすい人物だということだろうか。

著者は、開戦当時の日本大使館参事官の息子で、自身も戦後外務省で長い間奉職している。父がいた日本大使館の汚名を雪ぎたいという思いがよほど強いのだろう。ただその思いが強すぎるのか、きわめて悪文で読みづらい。前後のつながりがよく分からないし、意味不明の項目立ても多い。発行社側の編集力不足だと思う。縦書きなのに、長音符が"|"ではなく、横書きの"-"のままになっている場所も少なくとも3カ所あった。