帰りたい

イスマ、アニーカ、パーヴェイズは、ロンドンで暮らすムスリムイスラム教徒)の三人きょうだい。イスマは長女、下の二人は双子の姉弟パキスタン系英国人の父親はイスマが幼い頃に家族を捨て、ジハードのためにボスニアに旅立ち、グアンタナモ収容所への搬送途中で病死した。3人に父親の記憶はほとんどない。母親も7年前に死んだ。長女のイスマは妹と弟を育てるために学業を中断して働いた。妹のアニーカは高校卒業後、奨学金を得て大学に。弟のパーヴェイズは音響関係のキャリアを目指す。イスマは渡米し、研究助手として大学院で勉強を続ける。そんなある日イスマは、カフェでエイモンという青年に出会う。エイモンもロンドン育ちだが、パキスタン系の父親は英国の国会議員で裕福な家庭だった。ロンドンに戻ったエイモンは、イスマの妹アニーカに会い、強く惹かれる。
一方、ロンドンに残ったパーヴェイズはパキスタンの親戚に会いにいくと嘘をつき、旅に出た。行き先は、シリアのラッカ。ジハード戦士だった父に憧れ、イスラム国に参加していたのだ。
イスマ、アニーカ、エイモンはそれぞれに悩みながらも、信念を貫き、あらゆる手段でパーヴェイズを救い出そうとするが、内務大臣となったエイモンの父やMI5(情報局保安部)の監視、国籍の問題など様々な壁が立ちはだかる……。
登場人物の各視点による五章で構成され、物語はヒースロー空港に始まり、マサチューセッツ、ロンドン、ラッカ、イスタンブールへと舞台を移しながら、スリリングに展開し、パキスタンの都市・カラチで衝撃の結末を迎える。ギリシャ悲劇『アンティゴネー』に着想を得て、家族の絆と国家の法律の対立を描き、国籍・国境のあやうさを訴えかける傑作長篇。英米各紙で「ブック・オブ・ザ・イヤー」に輝き、BBCが選ぶ「わたしたちの世界をつくった小説ベスト100」(過去300年に書かれた英語の小説が対象)の政治・権力・抗議活動部門で10作品に選ばれた。
また、ムスリムの人が西欧社会で生きていく上での多様な生きづらさが具体的に描かれ、登場人物それぞれの視点で実感できることも本書の大きな魅力となっている。

とても衝撃的な結末で、イギリス小説だなと感じさせられる。イスラム国に参加した自国民を許さないイギリス政府の意思の強さが印象に残る。イスラム国に参加した日本人がもしいたら、どう対応するのだろうと思わされるが、日本の場合は世間の目線が事実上の制裁になるのかもしれないと思いながら読んだ。