最近のもの

「静かなドン」は7~8年前に河出の世界文学全集で読んだが、正月休みに岩波文庫版を購入し、連休を使って再読した。やはり自然描写が素晴らしく、ドン川沿いの冬の厳しさも夏の暑さも、その匂いも含めて伝わってくる。内戦では同じ集落のコサックたちが赤軍白軍に分かれて戦うことになるが、どちらも略奪と銃殺を度々行っていて、人の命が軽い国と時代だったことが分かる。グレゴーリータタールスキー部落に戻って息子と会う場面で小説は終わるが、実際にはその後の弾圧でコサックはほとんどいなくなってしまったのだから、グレゴーリ
ーや赤軍側のコシュベイなどはその後生き残ることができたのだろうかと考えてしまう。これを20代前半で書いたショーロホフはすごい。昭和30年代の本なので解説が古くさく、「グレゴーリーの悲劇、それは社会主義の時代における個人主義の悲劇である」とあるのが時代を感じる。
二重国籍と日本」は、蓮舫二重国籍問題をきっかけに書かれたもの。もともと複雑な問題であり、運用も不明確であることに加え、台湾との関係は、中国法を適用するのか台湾法を適用するのかの解釈も加わり、さらにややこしくなる。また、法務省の説明も二転三転していることが指摘されていて、その背景には蓮舫問題を大きくしたい思惑もあったようだ。また、外国に居住する日本人がそちらの国籍を取得したときに、日本国籍を失ってしまう問題も指摘されている。感情の問題も絡まってくるので、誰もが納得する解決策は残念ながらないのだ
ろうが、重国籍を容認すべきという主張のほうに理があるように感じた。
「日本史の内幕」は連載をまとめたもので一つ一つは短く読みやすいが、その分内容も薄くこんなもんかという印象。暇つぶしに読むにはいいと思う。
金足農業…」は、2018年の甲子園準優勝に至るまでの経緯を、取材を積み重ねて書いたもの。選手と監督が反発しあったり、選手同士で怒鳴りあったり、県内の試合中に相手にヤジを飛ばしたり、甲子園当時の頃に報道された、爽やかさが強調された一面とはまた違う様子がわかる。当時を体験した秋田県民は読んで楽しめるし、あの頃の高揚感を思い出した。
「神々の乱心…」は、清張の遺作である「神々の乱心」を解説したもので、原先生らしく鉄道と絡めながら解説している。昭和天皇と、母である貞明皇后との確執が扱われていて、二・二六事件の際の秩父宮の緊急上京も、その流れで秩父宮の擁立含みだったと説明されている。未完の大作だということだが一度読んでみたい。
マングローブ」は、JR東の労働組合革マル派に事実上操られていることを指摘したもの。指導者の松崎明が組合費を流用して沖縄やハワイに別荘を購入していることも指摘されている。他の労働組合員と一緒にバーベキューに行っただけで、職場で指弾され運転士をやめさせられる職員の話は身につまされるし、こんなことがまだあるのかと思わされる。それをそのまま受け入れている会社もどうなのか。
「トラジャ」は、マングローブのその後を扱ったもので、第1章はほぼマングローブからの転載になっている。JR東日本では2018年に労働組合から一度に3万人以上が脱退したそうだが、それは指導者の松崎明が2010年に死去してから、徐々に統制力がなくなるとあわせて会社側が反転攻勢に転じ、組合側がスト権を持ち出すに及んで蟻の一穴のように一度に崩れだしたようだ。一方で、JR東日本以上に大変なのが北海道だとか。社長経験者が2人も自殺していて恐ろしい。
「チャーズ」は、戦前に満州に住んでいた著者が国共内戦時に直面した長春包囲戦を描いている。製薬会社を経営していた著者の父は、中国人朝鮮人を問わず人道的な経営をしていたため、戦後もそのまま残されて製薬業を行っていたが、共産軍に包囲された長春で業務がストップし、脱出を試みる。包囲している共産側も難民を受け入れないため、長春にこもった国民党と包囲している共産党との間で難民が餓死していく。最終的に30万人以上が餓死したというのに絶句。中公新書でも「満州脱出」として同じく長春包囲戦が語られている。
「君たちは今が世界」は、小学生6年生のクラスを題材にした小説。ラインのやりとりで一喜一憂したり、仲良しグループの内部に別のグループができていたり、受験のための塾ではまったく違うキャラを演じていたり、様子がリアルで現代の小学生は大変だと思う。登場人物の中の一人が小学校の先生になっている結末が最後に描かれていて読後感がよかった。