ソクラテスの弁明・クリトン

ソクラテスの弁明・クリトンソクラテスの弁明・クリトン
プラトン 久保 勉

岩波書店 1964-01
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告発され裁判にかけられたソクラテスが、裁判官の前で対抗弁論を行う、「ソクラテスの弁明」。牢屋に入れられ死刑を待つばかりのソクラテスが、老友クリトンからの脱獄の勧めを断る「クリトン」。どちらもすらすらと読めます。都市国家間を移動する自由を保持し、成年に達しながらその国家にとどまっている以上、市民は国法を尊重するという無言の契約を結んでいるのであるという意見にはいろいろ考えさせられました。ソクラテスがすごいのは、自分の命が国法によって失われようとする間際にあってその意見をもっていたことでしょう。自分の命が国法によって危険にさらされてもいないときに、国家との義務を云々するのは、所詮対岸の火事を見ながら言っているのと同じわけですから。

私達は二人とも、善についても美についても何も知っていまいと思われるが、しかし、彼は何も知らないのに、何かを知っていると信じており、それに反して私は、何も知りもしないが、知っているとも思っていないからである。されば私は、少くとも自ら知らぬことを知っているとは思っていないかぎりにおいて、あの男よりも智慧の上で少しばかり優っているらしく思われる。(P.21)

しかしもう去るべき時が来た―私は死ぬために、諸君は生きながらえるために。もっとも我ら両者のうちのいずれがいっそう良き運命に出逢うか、それは神より外に誰も知る者がない。(P.59)