六ケ所村の記録―核燃料サイクル基地の素顔

六ケ所村の記録―核燃料サイクル基地の素顔六ケ所村の記録―核燃料サイクル基地の素顔
鎌田 慧

講談社 1997-05
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文庫版は全部で600ページにも及ぶ非常に分厚い本だが、とても読み応えがあった。

六ヶ所村の農地買占めから始まり、石油備蓄基地建設から核燃料リサイクル基地建設にいたるまでの動きがあますことなく書かれている。また、六ヶ所村と題されているが、その隣の東通村原発建設についても書かれている。その中でも、村内での政治的駆け引きの部分に非常に興味をもった。

村長選挙の際には、一票1万円とも5万円ともいわれる金が流れる。電力会社、建設業者が出所といわれている。選挙の日に大雪が降れば、それらの運動員が投票所まで車で送り、都会に出稼ぎに行っている人は投票のために飛行機で連れ戻して投票させる。また、原発を建てると海に温水を排出しなければならないので建設のためにはその海域の漁業権を放棄させることが必要になるが、その地域の漁協で反対派が多く放棄の議決を取ることができない状況になると、漁業に関わっていない人までも名目上組合員にして母数を増やして放棄の議決をするという記述は非常に大きな圧力を感じさせる。放棄の議決をする際には機動隊が装甲車を出して組合所の警備をするという。また、反対派の組合員が机をひっくり返すと威力業務妨害で逮捕され、推進派は殴り合いをして怪我をさせてもなんにもならないという記述もすごいと思う。

もっとも、鎌田慧は開発自体に反対している人であるのでそのような目からみた取材であることは分かった上で読まないとよくない。しかしながら、反対派のみではなく推進派、開発側にもインタビューをしていて載せてあるのは良いと思う。

この本の中に出てくる六ヶ所村の政治家たちのその後をgoogleで調べるとさらに興味深い。開発反対派の村長を73年に僅差で破り、その後4期にわたって村長を務めた古川伊勢松氏の弟が、現村長の古川健治氏である。また、02年に贈収賄事件に関連し、警察から事情聴取を受けた後に自殺した元村長の橋本氏も、この本の中には若手の村議として出てくる。その人がその後どうなったのかというのを踏まえつつ読むと、さらに話を奥深く感じることができると思う。