第三帝国の愛人――ヒトラーと対峙したアメリカ大使一家

第三帝国の愛人――ヒトラーと対峙したアメリカ大使一家第三帝国の愛人――ヒトラーと対峙したアメリカ大使一家
エリック・ラーソン 佐久間 みかよ

岩波書店 2015-09-26
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それは始まりに過ぎなかった――。ナチス政権下となって初めての駐独アメリカ大使としてドイツに赴任したドッド一家。まばゆい陽光の公園、美しい青年将校たち、街の煌めく不夜城、フォードでのドライブ、そして、血まみれの生贄。ナチス台頭期ベルリンで一家が遭遇した稀有な体験を、スリリングに描き出した戦慄のノンフィクション。

1933年の全権委任法成立後に、在独アメリカ大使としてベルリンに渡ったドッド一家を扱っている。大使はもともと歴史学者だったが大使として抜擢された。そのため、上流階級出身の周囲の外交官と価値観が合わずに苦労している様子が分かる。苦労しながらもナチスへの違和感を隠さず、党大会などへの招待は断るなど自身の意思を貫いているが、それがために本国とも対立し、任期途中で辞めさせられることになる。

その娘は渡独当時24歳だったが、様々な人たちと交際し、愛人関係を作りながらその輪を広げていく。その相手には、ジャーナリストもいればゲシュタポ関係者、各国の大使館関係者もいる。街角でいきなり外国人が突撃隊に殴られたり、連行されてむち打ちされたりするのを、最初は特殊な事例として重要視せずにナチスに共感を示しているが、ソビエト大使館の人間とつきあい始めてから徐々にナチスに幻滅し、その代わりにソ連へ傾倒していき、ついにはソ連スパイになるにいたる。そのソビエト大使館の人間もNKVD要員で、大粛清時代に消されている。

ナチ政権下の異様な空気に徐々に一家が包まれていくのがうかがい知れる。レーム粛清の様子はおそろしい。