サハリン棄民

サハリン棄民 (中公新書)サハリン棄民 (中公新書)
大沼保昭

中央公論新社 1992-07-25
売り上げランキング : 97184

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

戦前・戦中、炭坑資源開発のためサハリン(樺太)に渡った労働者の中には強制的・半強制的に募集・連行された韓国・朝鮮人が数万人いた。終戦とともに始まった引き揚げ事業はサハリンにも及んだが、その中に帝国臣民として徴用された朝鮮人は含まれていなかった。彼らはソ連統治下のサハリンに残されたのである。冷戦・南北朝鮮対立という国際環境、そして日本の戦後責任への無自覚に抗し、故郷訪問に至るまでの四十五年の足跡を克明に辿る。

戦後サハリンに残留せざるを得なかった(帰る手段を失われ、残された)朝鮮人の帰還問題に長年取り組んできた著者が同問題について描いた本。

戦後20年間以上、帰還問題は当事者の血のにじむような努力で個別に進められているに過ぎなかった。その後、徐々に市民運動が盛り上がり、またサハリン裁判を起こす動きも広がっていった。だが、サハリン裁判の弁護団と実行委員会の市民運動側には、徐々に対立が生じていく。

著者はその両者に接しながら、また独自に団体を立ち上げ、この問題に取り組んでいった。政治家にも働きかけ、超党派議員懇談会(今で言えば議連か)をつくるために与野党問わず根回しに奔走し、断られながらも懇談会を遂に立ち上げる。その結果として徐々に問題は前進していく。

本書は、市民運動に取り組む側の対立問題が隠さずに書かれており、また、議員懇談会が立ち上がり政治が動くまでは、この問題も遅々として進まない様子が書かれている。著書は、「慰安婦」問題とは何だったのかの大沼氏。同書も良かったが、このサハリン棄民問題は同氏の原点なのだろう。