骨董

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ラフカディオ・ハーン 平井 呈一

岩波書店 1940-11
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ラフカディオ・ハーンの短編集。怪談等の民間伝承や一女性の日記、仏教や死についてなど多彩な題材からヒントを得て、彼独自の世界を構築している。

特に心に残ったのは、蛍についての一考察。「螢」という題の、20ページ強の一文である。蛍を集めて売る商売の存在や、蛍を日本人がいかに歌に詠んできたかということとともに、このような話が書いてあった。

(蛍の火はときに薄気味悪いという話に続いて)それは螢の一族が柳の木を好くといふ事から見ても、薄氣味の惡いことは想像がつくだらう。ほかの木にだつて、性のいゝ惡いは兎も角として、必ずその木にはその木だけの魂といふものがあり、木の精や化け物が棲んではゐるけれども、特に柳といふ木は死人の木で、人間の幽靈がとりわけて好く木である。それに螢だつて或は幽靈であるかも知れやしない。いや知れないどころではない昔から生きた人間の魂はときによると螢の姿になつて出るといふ信仰さへあるくらゐだ。

この続きに書いてあるのは生きた人間が蛍の形をとって現れたという話なので厳密には違うのだが、読んで思い返したのは特攻隊員が蛍になって帰ってきたという話である。日本人の死生観と蛍の光には、なにか通じるものがあるのかもしれないと考えさせられた。

他にも、現在の日本人が忘れているような風習や思考など、新しい発見が数多くある。