ながい坂

徒士組という下級武士の子に生まれた小三郎は、八歳の時に偶然経験した屈辱的な事件に深く憤り、人間として目ざめる。学問と武芸にはげむことでその屈辱をはねかえそうとした小三郎は、成長して名を三浦主水正と改め、藩中でも異例の抜擢をうける。若き主君、飛騨守昌治が計画した大堰堤工事の責任者として、主水正は、さまざまな妨害にもめげず、工事の完成をめざす。

樅ノ木は残った以来の山本周五郎。下級武士の出身ながら苦労しつつ努力して藩の中心に上り詰める様子は教養小説といってもよいと思う。名家の生まれの息子と最後に和解するくだりがとてもよかった。最後の解説で、文化大革命を想起させるとあり、反対派を劉少奇らの実権派に、反対派に押し込められていながら最後に復帰する名君主を毛沢東になぞらえているあたりが時代を感じさせる。昭和46年の解説なのでやむを得ないのかもしれないが、こういう解説が今も残っているのはいかがなものか。