最近のもの

「懐かしい年への手紙」は、「晩年様式集」で題材にされていた30年前の作品。著者を思わせる作家の「Kちゃん」が四国の村に家族連れで帰るところから始まり、一転、幼少期からのギー兄さんをめぐる経緯が時系列で語られる。ほとんど大江健三郎本人の経歴と同じじゃないかと思わされるが微妙にぼかしてある。大学進学、小説を書き出す頃、中国訪問、結婚など。ギー兄さんは、著者がこうありたいと思った、地方の知識人の一つの偶像なのではないかと思う。これを読んでから「晩年様式集」を読んだほうが良かったかもしれない。

「ファーザーランド」はナチスが勝利した世界の1964年、ケネディ(ただし父)が訪独する直前が舞台になっている。元ナチス高官が殺害された事件を捜査することになった刑事が、アメリカの女性ジャーナリストと協力しながら、戦時中ユダヤ人がどうされたのか(いわゆるヴァンゼー会議)の謎に迫っていく。口封じとしてヴァンゼー会議に出席したナチス高官が次々と死んでいることが明らかになる。今の目から見れば謎でも何でもないのだが、ナチスが勝利した世界という前提なので。英国作家の作品らしく悲劇的な最後で暗い気持ちのままで終わる。

「岩場の上から」は2045年の日本が舞台だが、これもある種のパラレルワールド。震災後に政権に復帰した保守党の総理が、自衛隊を国軍化した上で東京五輪前に退陣した後、「総統」として官邸の地下に住み続けているという噂が広がっている世界。日本は「積極的平和維持活動」として東南アジアや中東で戦争しており、作中でテロ勢力に対して一方的に宣戦布告する。30年後にこうならなくて良かったと本当に思えるだろうか。一方で、そのような世界に住みつつも、市井の人々の生活感は暖かく書かれていて良い。

「経済大国アフリカ」は2000年代のアフリカの急成長をテーマにしている。もっともこの成長は資源が主な原因。農業生産力の低さがアフリカの成長の妨げになるであろうことがはっきりわかる。インフラが整っておらず、化学肥料の価格が高いため、低施肥、低収量の農業を営むことが経済最適になってしまっているとか。南アフリカ発の企業の様子なども面白い。

「偉大なる道」は朱徳の生涯を書いたもので、今読むと中国共産党プロパガンダじみていて古色蒼然としているが、読んでいると国民党の非道さには憤りを感じるし、わくわくするのは事実。鵜呑みにするのはよくないのだろうと思うが。これが出た当時、革命中国に対するイメージを向上させるのに大いに役立ったのでは。