母の影

母の影 (新潮文庫)母の影 (新潮文庫)
北 杜夫

新潮社 1997-04
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青山にある大病院の娘に生れ、斎藤茂吉と結婚した輝子。お嬢様として育ち気丈で破天荒な性格の彼女と、癇癪もちでワンマンな茂吉が、夫婦として折り合うはずもない。家にはいつも嵐が吹き荒れ、四人の子らは右往左往。そんな斎藤家の次男である著者が幼少時代の記憶を辿り、文学にめざめた頃を反芻しつつ、母への愛惜、父への尊敬、そして二人の死を綴る。追慕溢れる自伝的小説。

楡家の人びとや青春記で書かれたことが、さらに深掘りしてあるような感じ。母のことを書いた数編もいいが、一番良かったのは茂吉が亡くなった前後のことを書いている編。青春記が、茂吉が亡くなったという知らせを仙台で聞き、上京するところで終わっているのが印象的なのだが、その前後のことを詳しく書いている。茂吉の人間くさい部分や徐々に弱っていく様子など、読むとしんみりする感覚。